118 はじめに クリルとは、オキアミ類に属する小 型甲殻類の総称であり、日本では南極 オキアミが釣り餌用の撒き餌として広 く知られている。南極オキアミは動物 プランクトンの一種であり、南極海を 中心に膨大な生物量を有し、その資 源量は約4億トンに達すると推定され ている。これは地球上最大級のバイ オマスの一つであり、クジラ類をはじ めとする海洋生物の重要な栄養源と なっている。わが国近海においても、 類縁種であるツノナシオキアミが三陸 から北海道沿岸に分布し、一部では 食用利用も行われている。 オキアミは1970年代頃より将来的 な食糧資源として注目されてきたが、 近年になり、その脂質成分に高い生 理機能が存在することが明らかとな り、機能性食品素材として再評価され ている。特に、クリル由来脂質である クリルオイルは、オメガ3脂肪酸を豊 富に含有するのみならず、リン脂質結 合型EPA・DHAやアスタキサンチンを 特徴的に含有する点から、従来の魚 油とは異なる機能性を示す可能性が 注目されている。 1.クリルオイルの特徴 クリルオイルは、南極オキアミなどから 抽出される脂質成分であり、EPAを約 5%以上、DHAを約13%以上含有す るオメガ3脂肪酸供給源である。特に 重要な特徴として、EPAおよびDHAの 多くがリン脂質結合型として存在して いる点が挙げられる。 一般的な魚油中のEPA・DHAはトリ グリセリド型として存在するため、消化 管内でリパーゼにより加水分解を受け た後に吸収される。一方、クリルオイル 中のEPA・DHAは主としてホスファチジ ルコリンを主体とするリン脂質に結合 していることから、リン脂質自体の乳 化作用により吸収効率が高いと考えら れている。この特性により、クリルオイ ルは魚油と比較して高い生体利用性 を示す可能性が報告されている。 さらに、クリルオイルには強力な抗 酸化カロテノイドであるアスタキサン チンが含有されている。アスタキサン チンは活性酸素種の消去作用を有 し、脂質過酸化抑制作用を示すことか ら、EPA・DHAの酸化安定性向上に も寄与すると考えられる。また、抗酸 化作用を介して、疲労軽減、眼精疲労 改善、アンチエイジング作用などへの 関与も期待されている。 近年、クリルオイルは欧米を中心 に、心血管疾患リスク低減、関節機 能維持、認知機能サポートなどを目的 としたサプリメント素材として利用が 拡大している。また、ホスファチジルコ リン由来のコリン供給源としての重 要性も注目されている。 これまでの研究では、クリルオイル に関して、血中中性脂肪低減作用、脂 質代謝改善作用、関節痛緩和作用、 認知機能改善作用などの臨床報告が 存在する。また、抗炎症作用、抗アレ ルギー作用、周産期栄養、皮膚保湿、 さらにはヘルススパン延伸との関連に ついても研究が進展している。 2.クリルオイルの臨床研究と健康機能 1)認知機能および脳老化への影響 クリルオイル摂取により脳血流量の増 加が認められたとの報告がある。また、 計算課題負荷時における事象関連電位 農学博士 矢澤一良先生 早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科 学総合研究所ヘルスフード科学部門 部門長 日本脂質栄養学会 理事 日本機能性食品医用学会 理事 クリルオイル研究会 会長 P300潜時の短縮が観察されており、情 報処理速度の改善が示唆されている。 一般にP300潜時は加齢に伴い延長す ることが知られていることから、クリルオ イル摂取は脳機能維持や認知機能改 善に寄与する可能性が考えられる。 2)脂質代謝改善作用 高脂血症患者を対象とした研究で は、クリルオイル摂取によりHDLコレ ステロールの上昇およびLDLコレス テロールの低下が認められたとの報 告がある。EPA・DHAによる中性脂肪 低減作用は広く知られているが、クリ ルオイルではリン脂質結合型オメガ3 脂肪酸の高い生体利用性により、そ の作用がより強く発現する可能性が 示唆されている。 3)肝機能保護作用 動物実験において、クリルオイル投与 群ではアルコール負荷後のAST上昇が 抑制され、肝障害軽減作用が示された。 これには抗酸化作用や脂質代謝改善作 用が関与している可能性が考えられる。 4)生殖機能への影響 ラットを用いた研究では、クリルオイ 新型オメガ3「クリルオイル」による 予防医学的作用と 「若がえり」効果の可能性
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